Let's Get Lost

僕に力をくれ、もっと強くなってみせるから

180922

夜の暗さよりも、朝の暗さが好きだ。明度にさしたる差はないのだろうけど、朝の闇はなんだか柔らかいと思う。あと数時間もしたら光に掻き消されてしまう切実さを伴った紺色の空が好きだ。でも、夜がとくべつに好きなわけではないし、夜に向かっていく夕暮れの時間が好きかというとそんなことはない。むしろ、薄らいでいく世界の色を儚んでしまう。夕暮れは、闇の方が強い。有無を言わせぬ強さを持ったものが苦手だ、昔から。強さは好まない、消えてゆくもの、儚いものに美しさを見出すのは性癖とよんで然るべきものかもしれない。希望とか、夢とか、そういう言葉が嫌いなのもたぶん根っこは同じなのだろう。

典型的な夜型の人間なので、あまり明け方の闇と邂逅することはない。だから、こうして空港に向かう電車に乗る時は嬉しい。少しずつ成田に近付いて、開けていく空と明るんでいく世界の変化を刻々と楽しめるのは、それだけでも旅をする目的たりうるとさえ思う。

電車で隣になった人から、酒と煙草の匂いがして、生きることから目を背けていた大学院の1年目を思い出した。酒や煙草を嗜む人が必ずしも堕落的だとは言えないけれど、すくなくともそれらが持つその印象にあやかろうとしていた時期も確かにあった。あの頃の方が、よっぽど生きていたなと思う。体に悪いものと知っていながら何故吸うのだ、と嫌煙家に渋い顔で尋ねられたことがある。そんなの、決まっている。体に悪いから吸うのだ。寿命縮むよ、と言われたので、喜ばしいことじゃないですかと返答したらそれ以上質問は返ってこなかった。意図的に自分の体を苦しめる目的でそれらを摂取することは、たぶんあの頃の私に必要だったのだろうと懐かしく思い返した。最近はめっきり吸っていない。

旅は好きだ。余計なものを全部削ぎ落として、必要最低限のものだけで過ごせるから。日常で苛まれるあらゆる焦燥感から逃避する最短の方法だと思う。観光地にも買い物にもあまり興味はない。予定を立てるのも好きではない。そこそこ美味しいものを食べて、ふらふらと異国の空気を吸うだけでいい。ひとりでどこか行くときは、食事している時を除いてだいたいひたすら歩いている。身軽だ。誰にも思考を邪魔されず、右も左もその瞬間心が向いた方に歩き出せることほど自由なこともないだろう。まずいのか美味しいのかよくわからない機内食もわりと好きだったりする。着陸した瞬間、機体の羽が空気抵抗を大きくするために広がるのを見るのも好きだ。

9時に成田を出発して、ソウルに着いたのが11時半過ぎ。wifiをレンタルして、現金の両替をするべくまずは明洞に向かう。レートはそこそこ。中途半端な時間に機内食を食べたせいで、空腹は感じなかった。涼しいかと思っていたが、思いの外気温が高かったので、たまたま目に止まったアイス屋さんに寄り道をする。はいはいインスタ映えね、と思いながら食べてみたら、苺アイスが軽く衝撃を受けるほどの美味しさだった。冬に来た時には屋台で買い食いしていたのだけど、あいにくまだ少し時間が早かったらしく、営業している屋台はほとんど見当たらなかった。屋台のケランパンが大好きなのに、しばらくありつけていない。しばらくうろうろしてみたものの、やはり明洞は好きではないなと改めて思ったので、少し早めではあったけれど宿に向かうことにした。

f:id:lhzyxmjnh:20180924172403j:plain

チェックインして、荷物をおいて軽くなった身で公演会場のあるアックジョンへ。会場の前の通りの街路灯には、キャストの広告旗がかかっている。本格的だ。

f:id:lhzyxmjnh:20180924172827j:plain

そういえば、化粧ポーチをまるごと忘れたせいで、今日と明日はすっぴんで過ごす羽目になった。会社にも平気ですっぴん出社して一日そのまま過ごしたりするし、化粧なんて女性として生活するうえで社会から要請されるのに抗うのも面倒だから仕方なくしているだけの行為に過ぎないし、むしろしないですむに越したことはないのだけど、それはそれとして、好きな人の晴れ舞台を観に行くのだから少しは気合を入れたい気持ちがあったのも事実だ。カロスキルを少し歩き回ってみたけど、道行く人々が皆綺麗に着飾っているからすこし居心地が悪くなって、適当に目についたカフェに入った。

一年でこんなに気持ちのいい日もそうないだろう、と思うような、文句のつけようのない天気だった。日差しはまだ少し強いけれど、さらりと乾いた風が肌を滑っていくのが心地よくて、それだけでスキップしたいほどに気分が良かった。美味しいと口コミで見かけたティラミスとアイスラテを注文して、テラス席が空いていたので、そこで日向ぼっこをすることにする。パラソルはあるものの、少し傾いた太陽はそんなのお構いなしだ。さすがにずっと陽に当たっていると汗ばむくらいだったものの、こうやってゆっくりその熱を味わうことも随分していなかったから、なんとなく貧乏性を発揮してそのまま座っていた。大人になるとできなくなることってたくさんあるけれど、日向ぼっこもそのひとつだと思う。本は宿に置いてきてしまったので、たまに携帯を眺める以外はただぼーっと2時間くらいそうしていた。これも、旅先じゃなくちゃできないことだ。ジノがマガジンホでカバーしていた洋楽の曲が幾つか流れて嬉しくなった。ティラミスがすごく美味しかった。紅茶も美味しいみたいなので、また行きたいなあと思うけれど、韓国はカフェ文化がおもしろくて他のお店を開拓したい気持ちもあるから迷っちゃうな。

f:id:lhzyxmjnh:20180924172449j:plain f:id:lhzyxmjnh:20180924172906j:plain

少し早めに会場にもどり、チケットを受け取って写真を撮ったりしながら19時の開演を待った。

f:id:lhzyxmjnh:20180924172542j:plain f:id:lhzyxmjnh:20180924172604j:plain

終演は21時40分。出待ちをして、ジノを見送ったあとは早々にその場を退散した。自分がオタクのくせに何を、という話だけど、なんというかとにかくああいう場は好きではないのだ。カフェで時間を潰している間に目星をつけておいたお店に行くべく電車に乗るも、終演後の浮ついた気持ちのせいで逆方向に乗るとかいう凡庸なミスを犯したりしながら、新沙で降りる。公演会場のアックジョンからひと駅だから歩けない距離でもなかったけれど、少し遅かったし。若者が多いところだった。いたるところで賑やかな飲み会が開催されている。

食べたかったのはカンジャンセウ。普段海鮮が特別に好きかというとそうでもないのだけど、なぜだか唐突に食べたくなったので、その衝動に身を任せた。ついでにビールも頼む。隣の4人連れはダブルデートなのか、楽しげにいちゃついていた。その横でひたすら黙って海老をひとり頬張り続ける私。でも居心地の悪さはあまりなくて、庶民的な飲み屋の感じを味わえて楽しかった。甘辛い醤油によく浸けて熟成させた海老は、店によってはねっとりと溶けるような食感のところもあれば、ここのようにぷりっとした食感が残るところまで色々らしい。とにかく白米とビールとの相性が最高で、ぺろりと平らげてしまった。唐辛子が効いていて唇は燃えるように痛かったけれど、いやあ、美味かったな……。

f:id:lhzyxmjnh:20180924172721j:plain

宿に戻ってきて23時半。明日も飛行機までは少し時間があるから、どこか行きたい。