Let's Get Lost

僕に力をくれ、もっと強くなってみせるから

君の生まれた春に祝福を

昨年の大晦日にジノが出演していたミュージカル『オール・シュック・アップ』を観に行った時のことは少し前の記事で書いたが、実はあのあと、さらに2回観に行った。日帰りという強行スケジュールでの渡韓は我ながらどうかしていると思ったが、後悔しないことはわかっていたし、案の定微塵もしなかった(ただ、体力的には限界だったので日帰りはもう二度とするまい)。
 
その2度目、3度目を観に行ったときのこと、それから2月にあった札幌の雪まつりK-POP Festivalのことも、時の流れに飲まれて記録に残せないまま、また彼の歌を聴ける機会が訪れた。今日からちょうどひと月前のこと、MAGAZINE HOのミニライブだ。
 
その話の前に、少しだけ札幌のことを書いておく。その合同コンサートには、ペンタゴンの他にMONSTA XやTARGET、そしてProduce101に出演していたチョン・セウンくんが出演していた。どのアーティストも本当に魅力的でとても楽しかったのだけど、特に印象に残っているのがセウンくんだ。
 
実は、PD101を見ていなかった私は、その公演の直前まで彼のことを全く知らなかった。PD101を好きだった友人が、私が札幌に行くと話したら彼のことを教えてくれて、それで素晴らしい声の持ち主らしいと知ったのだ。
ペンタゴンを好きになってから合同コンサートに参戦するようになって、そのうちせっかくなら他のグループも目一杯楽しみたいからと、タイトル曲くらいは予習をして行くのが恒例になりつつあった。だけどその話を聞いて、彼に関してはあえて予備知識ゼロで行こう、と決めて臨んだ。神様からの贈り物みたいだというその声を、初めて耳にするのが肉声だなんて素敵じゃないか、と思ったのだ。その第一印象の衝撃を大事にしたかった。
 
それは正しい選択だった。彼のパフォーマンスは素晴らしかった。歌を、音楽をすごく愛していることがよく伝わってきたし、それを人前で披露できることに対する彼の嬉しさも見えたような気がして、真摯な人だなと思った。彼の温かい声が会場を満たしていくのがとても心地よかった。広いステージのうえにひとり立つ姿は、はじめは心もとなく感じたけれど、ひとたび彼が歌い出せば、そんなものはたちどころに消えてしまった。たったひとりで2000人の観客を魅せているその姿がすごく格好良かった。惚れ惚れとした。
 
その時に思ったのだ。いつかこうして、ソロで歌うジノの姿をみたい。ジノの声だけで満たされた空間に行ってみたい。月にいちど、Youtubeにカバー曲を載せるというMAGAZINE HOの企画があるからこそ、その思いは余計に強かった。だけど、その願いが、まさかこんなにも早く叶うなんて思わなかったのだ。
 
 
3月17日。ひと月前、『オール・シュック・アップ』の千秋楽で訪れた時より随分と寒さの和らいだソウルは、春らしい明るい曇り空だった。ライブハウスは驚くほど小さくて、人口密度が高いせいか会場の空気は白く靄がかかっていた。開演は予定より遅れ、午後5時20分くらいだっただろうか、ステージを隠すスクリーンに今までの映像が投影され、最後に「また聞きたいとは思いませんか?」と字幕。たまらずに叫んだ。
 
幕があがると、ジノはキーボードの前に座っていた。Bruno Marsの曲、"When I was your man" が始まりだった。ジノは緊張していて、途中で一度声を詰まらせてしまった。マイクを持つ手が震えているのが光に透けていたし、音程も心なしか不安定だった。だけどそんなことはどうだって良かった。私はもう涙の栓が壊れたように、最初からじゃあじゃあと泣いていた。感動、とかじゃないのだ。自分でも何がなんだかわかんないのに、涙が出てくるのだ。
 
2曲め、"너였다면" を歌い始めた時には、始めより幾分落ち着いたように見えた。私も泣いている場合ではないことに気がついて、とにかく耳を澄ませることに全霊を傾けた。ジノの声が鼓膜を通り越して私の体の中まですっかり満たしていて、けれど不思議なことに、もっと聴きたいと思っていた。私の体を構成する37兆個の細胞ひとつひとつに聴覚があればいいのに、と思いながら聴いていた。
 
挨拶するために明るくなったステージで、ジノはまた声を詰まらせた。少しだけ顔を背けて、目尻を拭うような仕草をして、それから挨拶をした。内容はあまりわからなかったけれど、緊張していること、こういう機会を得られて嬉しいことなんかを話していたと思う。彼が泣いているのを見て、結局また泣いてしまった。
 
続く3曲めは、小田和正の "言葉にできない" だった。先月の頭にあった日本公演(これには行かなかった)で披露したという話を聞いていたから、これを聞くことはないだろうと思っていた。それだけに、シノンらしき人影が照明の落ちたステージで動いているのを見てもまさかと思ったし、明るくなってそれがシノンだとわかっても、彼がピアノを弾き始めても、まだ信じられなかった。嘘みたいだと思った。本国のステージで、日本の曲をやってくれるなんて。都合のいい考えだとはわかっても、彼が日本のファンのことも頭に少しくらい浮かべてくれていたらいいなと思って、ここでもやっぱり泣いた。
 
シノンのMCで和やかな雰囲気になり、すっかり緊張の解けたジノは4曲め "Forthenight" で私の心をもう一度掻っ攫っていった。こんなに好きなのに、またひとつ好きにさせられてしまったみたいで、少し怖くなった。かっこよかったんだ、本当に。小柄な体と幼く見える笑顔とで可愛いと評されがちな彼だけれど、どこか恍惚とした表情と、赤い照明はもはや妖艶ささえ漂わせていて、ドキドキした。
 
間髪入れずに続いた멋있게 랩は、ユウトとウソクが登場したことで会場の熱気も一気に膨らんで弾けて、そりゃあもう楽しかった。私は列の端だったから、ほとんど小躍りしながら聴いていた。ここまでの4曲にあってさえ多様な声を聴かせた彼は、ラップをしていてもかっこいいのだ。知っていたつもりだったけど、ずるいじゃないか、と思った。どこまでもずるい。
 
そのあとのMCは、末っ子ラインの二人も加わってさらに愉快な雰囲気だった。言葉はあまりわからないけれど、とにかく微笑ましくってずっとにこにこしながら眺めていたような気がする。そういえば、この時だったか、ひとつ前のMCだったか忘れてしまったのだけど、シノンがジノに、「どんなミュージシャンになりたいですか?」と尋ねる場面があった。ジノは顔をしかめてしばらく考え込んだあと、なおも迷うような口ぶりで「本当にわからないんです。ラップもポップもバラードも全部好きだし……やっぱりわからない」と苦笑いして、涙腺のぶっこわれた私はまたそこで泣いた。本当に歌うことそのものを愛する人の答えだ、と思ったから。
 
またがらりと雰囲気が変わって、"좋니"、そして私が一番聴きたかった "야생화(野生花)" が続いた。
これに限った話ではないけど、特にこの2曲は、切羽詰まったような余裕のない歌い方がたまらなく胸を締め付けるようで、MAGAZINE HOのシリーズの中でかなり好きなもののひとつだ(ちなみに、一番は今年の1月にカバーしていたBruno Marsの "Finesse" なので、これが聴けなかったことだけが心残りである)。
 
8曲め、Charlie Puthの "Attention" は、セットのソファに深く身を沈めての歌い出しだった。これまた心臓を握りつぶされるほどセクシーだった。ふとした瞬間にいやというほど男性的なんだ。
 
本当に多彩な表情を見せる人だ。ともすれば、まるで違う人格がそこに存在しているかのように。もちろん、曲の雰囲気に合わせて演技もしているのだろう。そこまで含めて彼の歌なのだろうと思う。切ない空気を纏わせることもあれば、"Forthenight" や "Attention" 、このライブでは披露しなかった "I think of you" のように、少し軽薄な男らしさを漂わせることもある。そうしてくるくると姿を変える彼の自在さに、私は取り憑かれている。歌は彼をどんな人間にもしてくれるのだ。歌は、きっと彼にとって翼のようなものなのだ。
 
だけど私が彼の歌う姿を愛するのは、彼がけっして歌の世界に囚われないからだ。これは以前にも書いたことがあるけれど、彼の唇から紡がれる詞が悲しいものだったとしても、それを聴いて私が悲しさを覚えることはない。なぜなら、彼の歌声に滲むのは、純度100%の歌うことに対する愛だから。歌の世界にひらりと飛び立っては悲しい顔や気障な男の顔をしてみせるくせに、そこにいるのはいつだってジノ以外の誰でもない。だから私は彼を好きでいられるんだと思う。
 
そんなようなことを考えながら、彼の声に浸っていたら、2時間弱なんて飛ぶように過ぎていた。とにかく幸せだったことは覚えているけれど、もう記憶は霞んでいる。たとえば照明の色がどうだったとか、目を伏せた時の睫毛が作る影だとか、フイくんと歌った "I'm not sorry" でふたりがどんな風に視線を交わし合っていたかとか、本当はそういうところまで覚えておけたらどんなに良いだろうと思うけれど、私の海馬は残念ながらそんなに優秀じゃない。だけど、具体的な輪郭は見失っても、あの日の幸せはちゃんと今も私の掌の上にある。
 
最後は楽しい雰囲気で終わるのかと思いきや、"잠 못드는 밤에" と "You are not alone" で締めたことに、また彼らしいプライドを見た気がした。最後まで、彼の声を一番聴けるバラード曲にしたのかな、と。運営側からのサプライズで、アンコール2曲めで私たちはスローガンを掲げた。彼は驚いたように目を見開きながら最後まで歌いきって、それから、「ありがとう」とつぶやいた。ああ、きてよかったな、と思った。
 
年明けの日本盤のリリースイベントのサイン会で、私は彼につまらない質問をした。
 
「歌が好きですか?」
 
これを訊こうかどうか、ぎりぎりまで迷った。他の質問も考えてあった。だって、あまりにも当たり前すぎる問いだったから。今考えたら、馬鹿だなと思う。好きじゃない、なんて言うわけないじゃんね。それでも、どうしてもジノの口から聞きたかった。
 
サインを書く手を止めて、私を見上げてにっこり笑って「はい、すごく好きです」と迷いなく答えてくれた彼の瞳はまっすぐだった、と思う。
 
その時の言葉を、声を、笑顔を、何度も何度も思い出しながら、私はその2時間を揺蕩っていた。幸せだった。
 
好きだ。どうしようもなく、この人が好きだ。
ジノ、誕生日おめでとう。こうして歌ってくれて、ありがとう。あなたが歌う世界に生きることが出来てよかった。